最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)70号 判決 1991年9月27日
長野市青木島三丁目九番地一〇
上告人
富士工機株式会社
右代表者代表取締役
藤形禎一
右訴訟代理人弁護士
赤木巍
長野市西後町六〇八番地二
被上告人
長野税務署長 小林定雄
右指定代理人
畠山和夫
右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行コ)第六五号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年一月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人赤木巍の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って、原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)
(平成三年(行ツ)第七〇号 上告人 富士工機株式会社)
上告代理人赤木巍の上告理由
一 原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
すなわち、原判決は次のとおり判示している。
(一) 控訴人は、昭和五四年一〇月期において二九九九万七千円の過大在庫を計上し、同額の翌期の繰越欠損金を圧縮した。
(二) 控訴人は昭和五四年一〇月期の法定申告期限から一年の期間内に右翌期繰越欠損金について国税通則法二三条の請求をしなかった。
(三) 右期間経過後は同法七〇条二項所定の期限前であっても、翌期繰越欠損金を更正するかどうかは被控訴人の裁量に属することであり、控訴人から職権の発動を求められた場合においても常に更正決定を義務づけられるものと解することはできない。
二 国税通則法二三条、七〇条についての原判決の右のような解釈は誤っている。
すなわち、更正の請求の有無、更正の請求の期限の徒過の有無とは関係なく課税庁である被控訴人は納税者の負担の公平を図る見地から、公正な税額に訂正する義務があるのであり、控訴人から在庫の過大計上上の事実を知らされ、昭和五四年一〇月期の翌期繰越欠損金について減額更正するよう職権の発動を求められたときは、誠実に在庫の過大計上の事実の有無を調査し、右事実が確認できた場合には減額更正をすることを義務づけられるのである。(DHCコメンタール国税通則法一四二四ページ)
すなわち、更正は講学上いわゆる自由裁量行為ではなく、羈束裁量行為であり、原判決の減額更正をするかどうかは被控訴人の裁量に委されているという解釈は誤りである。
三 上告人が右に述べたような主張は決して独自の見解ではなく、実定法に根拠を持つものである。
すなわち、法人税法一二九条二項によれば、仮装経理によって過大申告をした内国法人に対しては、税務署長はその法人が修正の経理をし、それに基づく確定申告書を提出するまでの間は更正をしないことができると定めている。
右条文は、納税者の申告が過大であった場合には一般的に税務署長は減額更正を義務づけられていることを前提としつつ、特殊な場合すなわち右過大申告が仮装経理に基づく場合には税務署長は減額更正をしないことができると定めたものと解されている。
そして、税務署長の右更正義務は国税通則法七〇条二項所定の五年間存続すると解されている。(大阪地裁判平・元・六・二九判決 判例時報一三三九号八五ページ以下)
四 なお付言するに上告人の行った在庫の過大計上は法人税法第一二九条二項所定の「仮装経理」には該当しない。何故なら右「仮装経理」とは、架空売上等もっぱら対外取引に基づくものを指し、在庫の過大計上のような内部的なものは含まれないからである。(DHCコメンタール法人税法四六五ページ)
(原判決は八丁裏二行目九丁表五行目等において「仮装経理」という用語を使用しているが不用意な誤った使用法である。)
五 以上原判決の国税通則法二三条、七〇条二項についての解釈が誤りであることを論証したが、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。
なぜなら、被上告人担当官が昭和五九年八月から九月にかけて税務調査をした際、上告人の会計事務担当の堀内幸久から在庫過大計上の事実を知らされ、関係帳簿の提出を受けたのであるから、被上告人は右資料に基づいて昭和五四年一〇月期以降の翌期繰越欠損金について減額更正をすることが義務づけられることとなり、その結果、原判決添付別表のとおり、上告人の昭和五七年一〇月期、昭和五八年一〇月期の所得はいずれも零円となるからである。
六 上告人をして言わしむれば、被上告人の本件各更正処分は上告人の減額申し出に真しに対処せず、不動産譲渡に対する増額更正だけをするという片手落ちなものである。(上告人が右不動産譲渡益を申告しなかったのは脱税の意図によるものではなく、取引前に被上告人の担当官と税務相談をした結果、譲渡益を計上すべき時期は不動産の引渡しのあった時であると理解したからである。しかしこの点は本訴においては問題としない。)
そして、上告人が本件各更正処分に対し異議申立をしたところ、被上告人は在庫の過大計上は認めつつも、昭和五四年一〇月期の過大計上については国税通則法七〇条二項の減額更正期間を経過しているとして、減額更正しなかった。
上告人が本件各更正処分の取消請求訴訟を提起したところ、被上告人は異議決定中の判断を翻し、そもそも在庫の過大計上の事実が認められないと主張した。一審判決は被上告人の右主張を認めた。
上告人が控訴したところ、被上告人は、更正請求がなかった以上減額更正をするかどうかは上告人の裁量であり、減額更正しなかったからといって上告人が本件各更正処分の取消しをすることは許されない、と主張するに至った。原判決は被上告人の右主張を認めた。
しかしなから、一審において、被上告人の調査担当官であった中村徳男証人は、上告人代理人の「税務署が過大在庫を認定するのには過大在庫のなかった時点までさかのぼって認定をして行かないと認定ができないということですか」という質問に対して、「そうです。事実を確認してからです。(後略)」と答えている。(同証人の調書一三丁裏末尾四行目以降)この回答の趣旨は調査の結果過大在庫の事実が確認できれば、被上告人は更正の請求がなくとも減額更正をする、という意であると解される。(実際に被上告人は、昭和五五年一〇月期、昭和五六年一〇月期、昭和五七年一〇月期、昭和五八年一〇月期については更正請求がなかったのに減額更正をしている。項第一号証)
このように、被上告人は、本件各更正処分、異議決定、本件訴訟において、次々と主張を変更しているのである。このような課税庁の態度は真面目な納税者を愚弄するものであり、国民の納税意欲を減退させ、ひいては国家の利益に反するものである。
以上